座談会
マイスター・
スペシャリストが
語る仕事の魅力
知れば知るほど、
時計の世界は奥深い。
ものづくりを通して夢を追いかける
マイスター・スペシャリストたちにインタビュー!
メンバー
Member
小赤澤 啓太 こあかざわ・けいた
2006年入社 部品製造部 化工職場
ブロンズマイスター
岩手県出身。地元で生まれ育ち、世界に誇れる地元企業として盛岡セイコー工業に興味を抱いて入社。時計部品の表面処理を行う部署でめっき処理・熱処理を担当。
伊澤 幸一 いざわ・こういち
2007年入社 生産技術部 試作職場
ブロンズマイスター
千葉県出身。父親がセイコーのマイスターだったことから、幼い頃より時計づくりに親しむ。試作職場がある盛岡セイコー工業に入社するため、千葉県から移住。
松尾 健 まつお・けん
2006年入社 雫石高級時計工房 高級ウオッチ組立職場
シルバーマイスター
岩手県出身。高校時代はサッカーに熱中し、就職のために地元へUターン。卓越した技術を持つゴールドマイスターの先輩たちに憧れ、時計づくりの道に踏み込む。
大對 愛 おおつい・あい
2012年入社 雫石高級時計工房 高級ムーブ組立職場
令和7年度岩手県青年卓越技能者
兵庫県出身。ジブリ映画「耳をすませば」で時計の修理シーンを見て、時計に興味を持つ。時計師を目指して滋賀県の時計学校で学んだ後、入社のために岩手に移住。
Work
現在の仕事は?
まず、皆さんの仕事内容について教えてください。
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小赤澤
時計というと組立をイメージする人が多いと思いますが、私が手がけているのは部品製造です。時計の精度を上げるには、部品自体の精度を上げなければなりませんから、とても重要です。いろいろな化工プロセスがありますが、私が所属しているのは部品の表面処理を行う部署で、主にめっき処理と熱処理を担当しています。

部品といっても多様な形状、大きさがあって、それぞれに合わせて処理をするんですね。
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小赤澤
時計の種類によってもめっきの仕方は変わります。高級時計の部品の場合は、保護するだけでなく、美しく装飾するのが目的。金やロジウム、プラチナなどを手作業で処理していくんですが、同じ条件でも作業する人によって微妙に違う顔になるから難しいんですよね。
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松尾
こうした一つひとつの部品を組み立て、調整するのが、私が所属する組立工房です。その中で私が担当しているのは、クレドールの薄型の機械式腕時計。分業制ではなく、一人で一つの時計を全部組み立てます。ちなみに時計は、200〜300もの部品があるといわれていまして、それをゼロから組み立てて、一人で完結させるわけです。私以外にもう一人同じ仕事をする後輩がいますが、マンツーマンで指導をしている最中です。
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大對
同じ組立工房でも、松尾さんは全て一人でやられますが、私は分業制のセクションでムーブメント(時計の駆動部)の精度調整を担当しています。一番最後の調整になるのですが、時計の進み・遅れをチェックして、グランドセイコーの規格内に追い込むんです。時計も人間と同じで一つひとつ答えが違うので、個体ごとの状態を見ながら微妙なズレを調整します。しかも、時計をつけた時って、腕はいろんな動きをしますよね。だから、一方向だけでなく、あらゆる向きで調整しなければならないんです。

伊澤さんが所属しているのは試作職場ですが、組立工房とは全く違うセクションなんですね。
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伊澤
読んで字のごとく、試作品を作る職場です。「こういう時計を作りたい」と企画した時に、設計者が図面を描き、形にするのが私たちの仕事。試作した時計は、評価に回され、ちゃんと機能するかをチェックして、不具合があれば設計にフィードバックされるサイクルです。普通の時計製造では、自動機やNC加工など、作業工程ごとに部署が分かれているんですが、試作職場ではそれを全部やる。その中で私は仕上げといって最後に部品を組む作業を担当しています。試作品ですから、金具や歯車も既成のものでは使えない場合も多いので、それをどう解決するのかを考えて、刃具や治具も自分で作って仕上げていくんです。

Why Morioka Seiko
やりがいや魅力は?
仕事の面白さをどんなところに感じていますか。
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小赤澤
時計と同じように、それを形づくる部品にも一つひとつ個体差があるので、すべてが均一に処理できるわけではありません。特に試作品や高級腕時計は、手作業が多いので部品の表情も違う。一つひとつの部品に合わせて洗浄の条件や処理の仕方を変えないとならないので、なかなか難しいんです。
めっき処理は、部品製造の最終工程。それまで様々な加工の手間をかけてきたものを最後に処理する責任と、失敗できないプレッシャーがありますから、うまく仕上がった時の達成感は大きいです。最近はシースルーバック(ガラス張りの裏蓋)のモデルも多いので、「魅せるめっき」として存在感を主張できますし、多くの人にその美しさを見てもらえるのはすごく嬉しいです。
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伊澤
私は試作職場で働きたくて雫石に来たくらいですから、全部自分で考えて、自分でやれること自体が楽しくて。図面をもらって、どうやって治具を作ろうか、こうしたらうまくいくんじゃないか、失敗したら次はどうしようか…と、トライ&エラーを繰り返しながら課題を解決していくところが一番面白いですね。しかも量産するものと違って、試作品は毎回違うハードルがあるので、いろんなことにチャレンジできますから。

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松尾
私の場合、面白みを感じていることが二つあります。一つは、クレドールという高級腕時計をゼロから完成体まで自分一人で完結できること。分業ではなく、自分の技量だけで一貫してやれることは、時計師としての誇りであり、大きなやりがいです。もう一つは、難しい作業をクリアしていく作業の楽しさ。時計には個体差があって、人間でいうと機嫌の悪い子もいれば元気過ぎる子もいる。その状態を見極めて、いかに規格内に追い込んで、お客様のものとに届けていくか。微妙な調整の中で追い込みをかけて、規格内に入れた時はすごく達成感を感じます。

松尾さんの手がけるクレドールは、とてもスペシャルな時計なんですよね。
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松尾
日常のものではなく装飾品としてのジャンルに入るので、限定モデルになると数百万、数千万円の世界です。それだけに、私が作った時計を身につけてくださるお客様を見ると、本当に幸せな気持ちになります。嬉しくて笑いがとまらなくなっちゃいますね。
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大對
その気持ちはすごくわかります。お客様の様子を目で追っちゃいますよね。時計づくりには様々な理論があって、それを実際にやってみて技術と理論がバチッと当てはまった時に楽しいなって感じますね。私が担当する精度調整って、一つひとつの時計によって進み・遅れが違うんです。その調整方法もいろいろあるわけですが、いざやってみるとなかなか規格内に収まらない。そこが一発で決まった時とかは「よし!」って思いますね。


Career
目指すキャリアは?
盛岡セイコー工業には、技能を評価する「プロフェッショナル人材制度」があり、スペシャリストやマイスターが多くいます。皆さんはキャリアについてどのように考え、実現してきましたか。
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小赤澤
私はめっき処理でブロンズマイスターになっていますが、組立とは違い、部品製造に関わる部署で認められる人はまだ少ないんです。でも、金型仕上げの分野で先輩が「現代の名工」に選ばれるなど、その道を切り拓いてくれたおかげで、部品精度を高める技術も評価されるようになりました。私の場合は、最初からマイスターになろうと意識したわけではなく、日々いかにうまく仕上げるかを考え、積み重ねてきた結果、マイスターとして評価してもらったという感じです。
小赤澤さんはめっき処理の他に、熱処理も担当されていますよね。
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小赤澤
今は熱処理のマイスターがいませんし、熱処理とめっき処理の両方を手がけているマイスターもいません。シルバーやゴールドも目指せればいいのですが、一番大事なのは日々の業務にしっかり向き合うことだと思っています。自身のレベルアップもそうですが、後輩の育成も大事ですから。
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伊澤
私が入社した時は、試作職場に2人のマイスターがいて、父親もマイスターでした。私の師匠もそうだったんですが、マイスターは神様みたいな存在。迷った時に相談すると、自分とは全く違う発想が出てくるし、なんでもできてしまう人たちなんです。だから、自分には無理だろうと思っていたのですが、職場長から推薦していただいて。まだまだ至らないのですが、自分がマイスターになることで後輩の道標になればいいなと思っています。


「後輩のために」ということですが、指導で気をつけていることはありますか。
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伊澤
先輩に言われたことで今でも強く残っているのは、「仕事は仕事が教えてくれる」という言葉です。先輩が細かく指示しても、自分で気づかなければ腕は上がらない。だから、できるだけ後輩に考えさせて、失敗することがわかっていても、あえて失敗させることもあります。仕事をやっていけば、自ずと大事なことを学んでくれるはずなので。
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松尾
私は貪欲なので、取れるものは全部欲しいと思って、最初からマイスターの認定を狙っていました。マイスターって技術も知識もある年配の方という印象があったので、そのイメージを払拭したいと思って。チャンスがあれば試験に挑戦して、最年少でブロンズマイスターになりましたし、いわて機械時計士のIWマイスターに合格し、青年卓越技能者にも選んでいただけました。こうして成果を蓄積していくことで、若くてもチャンスがあるってことを後輩に示したいと思っています。


さらに上のマイスターも目指しているんですね。
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松尾
マイスターになってからも節目ごとに対話の機会があり、技術だけでなく仕事への姿勢や後輩との関わり方を振り返ります。技能と想いを次世代につなぐ存在であることが大切だと感じています。マイスターなら、誰もが認め、尊敬される存在でなくてはならないと思うので、ゴールドを目指せるよう日々精進しています。
大對さんは「岩手県青年卓越技能者」に選ばれましたね。
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大對
ありがとうございます。技術面ではもっと高みを目指していきたいのですが、先輩方のお話を伺って、伝えていく力がまだまだ不足しているなと改めて感じました。マイスターになるには、時計文化の啓蒙といったことも含まれるので、もっといろんなことを勉強し、伝える力を鍛えなければなりません。いわて機械時計士のIWマイスターの資格も取りたいですし、できればブロンズやシルバーも目指していきたいですね。
